食材は、とにかくストックしません。その日に使う分くらいにしておきます。肉は大きく買って小分けにし、冷凍庫でうまく管理します。
現場で見てきたこと
冷凍をうまく使う
食材の管理で大事なのは、冷凍できるものはうまく冷凍して、長くもつようにしていくことです。
特に肉は、冷凍しても味がそんなに劣化しません。ラップなどで小分け(ポーション)にして、冷凍庫から少しずつ出していける形にしておきます。これは魚も同じです。
野菜も、冷凍した方が栄養価が高くなるものがあったりします。そもそも冷凍した方がおいしい、というものもあります。キノコがそうです。
小分けにしておくと、解凍も早く済みます。大きな塊のまま冷凍してしまうと、解凍されるまでにすごく時間がかかります。細かく小さくしておけば、解凍の時間は短く済みます。
こうして冷凍をうまく使えば、安全で新鮮なものを出しながら、食材のロスを防ぐことができます。
肉は大ロットで買って、小分けにする
肉などは、ある程度大きなロットで買わないと安くなりません。だから、大きなロットで買います。そして、それを細かくポーションに分けて、冷凍庫でうまく管理します。
葉物野菜は、その日の分だけ
一方で、葉物野菜はすぐに悪くなってしまいますし、冷凍もできないものが多いです。サラダで出すとなると、本当にすぐ悪くなってしまいます。
仕入れ先は、売上で決める
では、サラダの食材などをどこから買ってくるか。農家から取り寄せるのではありません。
大量に使うのであれば、業者から買います。たとえばお好み焼き屋さんは、キャベツをバンバン使います。そういうお店なら、売上次第ですが、業者から買ってもいいと思います。業者は、段ボールに野菜を入れて運んできてくれます。その方が安くて、うまく回るのであれば、毎日来てもらいます。
ただ、業者に来てもらうほどではない場合も、結構多いです。売上が3万円くらいの日が続くような状態であれば、近くのスーパーで、その日に必要な材料だけを買うのが一番いいです。
たとえばオーケーのように、食材がかなり安いスーパーもあります。そういうお店が、バイクや車でちょっと行ったところにあるのであれば、そこである程度買っておいた方がいいと思います。このあたりは、どこで経営するか、立地によっていろいろ変わってきます。
売り切れごめんにする
食材がなくなったら、その料理はその日は終わり。「売り切れごめん」にした方がいいです。
お客さんは少し残念に思うかもしれません。それでも、悪いものを出すよりはマシです。食中毒になってしまったら、お店は営業停止になってしまいますし、信頼も完全に失ってしまいます。
スーパーが近いのであれば、アルバイトの子がいれば、走って買いに行ってもらうこともできます。
お客さんの「幻想」
ここで少し、本音の話をします。基本的に、ほとんどの飲食店はスーパーで買い物をしています。
お客さんは、「この食材は、どこか遠くの農家から仕入れてくれているんだろうな」と思っているかもしれません。そうあってほしい、という気持ちもあると思います。でも、それは幻想です。
安全のこと、経営のことを考えると、近くのスーパーで買えるものはスーパーで買う。大量に使うものは業者から買う。それが現実です。
データで答え合わせ
ここでは、食品科学の研究と、行政の統計で確かめます。
肉は冷凍しても劣化しにくい。小分けにして使う分だけ出す
判定:裏づけあり
山口県の試験(2021〜2023年度、鶏肉)では、急速冷凍すると、ゆっくり凍らせた場合よりも、解凍するときのドリップ(肉から出る汁)が約40%減りました。解凍したあとのかたさやうま味成分は、生の肉と差がありませんでした[1]。
解凍は、冷蔵庫か氷水で行います。流水や室温での解凍は、食中毒菌が増えるので行いません[1]。自治体の食中毒予防の指導も「解凍は使う分だけ行い、解凍後はすぐ調理」となっていて、小分けにして使う分だけ出す、という考え方とそのまま重なります[2]。
補足すると、ドリップが減るのは急速冷凍した場合です。ゆっくり凍らせると、逆にドリップは増えます。薄く平らに小分けにしておくと、早く凍り、早く解けます。なお、魚の冷凍については、今回は調べられていません。
キノコは冷凍した方がおいしい
判定:裏づけあり
査読つきの論文(2006年)で、6種類のキノコを冷凍してから加熱すると、うま味成分(グアニル酸)が生のときより多くなることが確かめられています[3]。
ただし、種類によって差があります。北海道の林産試験場によると、ナメコとエノキははっきり増えますが、ブナシメジはほとんど増えません[4]。
火の入れ方も関係します。うま味を作る酵素は60〜70℃でよく働き、80℃以上になると働かなくなります。沸騰したお湯にいきなり入れるより、ゆっくり温度を上げていく方がよいとされています[4]。
正確に言うなら、「キノコは冷凍するとうま味が増える。ただし種類と火の入れ方による」です。「栄養が増える」という話は、根拠が見つかっていません。
野菜は冷凍した方が栄養価が高くなるものもある
判定:言い方を修正
米国の研究(2017年)で8品目の野菜や果物を比べると、「生」「冷凍」「生のまま5日冷蔵」の間で、ほとんど差がありませんでした。差が出た場合は、冷凍が「5日冷蔵した生野菜」を上回ることが多かったそうです[5]。
一方、日本の研究では、冷凍の小松菜を茹でると、ビタミンCが13〜23%しか残っていませんでした。冷凍する前の下茹でで、ビタミンが溶け出してしまったためです[6]。
正確な言い方は、「冷凍で栄養が増えることはない。収穫してすぐに凍らせた冷凍野菜は、お店で数日置いた生野菜より栄養が保たれている場合がある。ただし葉物は、下茹ででビタミンが大きく減ることがある」となります。
食中毒になったら営業停止。信頼も失う
判定:裏づけあり
2025年の食中毒は1,172件で、患者は24,727人、亡くなった方が2人でした。患者の数は前年の約1.7倍で、事件の数の56.1%は飲食店が原因でした[7]。原因は、多い順にノロウイルス39.4%、アニサキス23.9%、カンピロバクター18.8%です(事件数)[7]。
ノロウイルスの食中毒では、3日間の営業停止が典型的です。柏市や上尾市の例でも、そうなっています[8][9]。また2021年6月からは、小さなお店も「HACCP(ハサップ)の考え方を取り入れた衛生管理」が義務になりました。衛生管理の計画を作り、実行し、記録を残す必要があります[10]。
「売り切れごめん」は正しい考え方です。ただし、食中毒の主な原因は、古い食材よりも、調理する人の手や体調(ノロウイルス)、鶏肉の加熱不足(カンピロバクター)、生の魚(アニサキス)です。体調の悪い人を調理に入れない、しっかり手を洗う、鶏肉は中心まで加熱する、刺身は目で確かめる。これが対策の中心になります。
ほとんどの飲食店はスーパーで買っている
判定:データなし
小さなお店がどこで仕入れているのか、スーパー・業者・市場・ネットの割合を示す調査は見つかりませんでした。
逆に、業者からの仕入れが広く使われていることを示すデータはあります。業者との受発注アプリ「クロスオーダー」は、毎月13万店以上に使われています(2026年2月、企業の発表)[11]。卸の側も小口化していて、2025年11月には、必要なときに必要な量だけ買える飲食店向けの食材通販も始まりました[12]。
「売上が小さいうちは近所でその日の分だけ買い、量が増えたら業者に移る」という考え方は、在庫のロスと欠品のバランスとして筋が通っています。ただ、「ほとんどのお店がスーパーで買っている」という部分は、現場の経験談として話すのが正確です。
まとめ
食材はストックしない。肉は大きく買って小分けに冷凍し、使う分だけ冷蔵庫で解凍する。キノコは冷凍してから、ゆっくり火を入れる。野菜は「冷凍で栄養が増える」とは言わず、葉物はその日の分だけ買う。そして食材がなくなったら、売り切れごめんにする。食中毒を防ぐ中心は、手洗いと体調管理と加熱です。
出典
- 山口県 試験研究成果(鶏肉の急速冷凍)
- 名古屋市「家庭でできる食中毒予防」
- J-STAGE 石黒ら(2006年、日本食生活学会誌)
- 北海道立総合研究機構 林産試だより(2018年9月号)
- Li et al. 2017(Journal of Food Composition and Analysis)
- 厚生労働科学研究 分担研究報告書
- 厚生労働省「令和7年食中毒発生状況の概要」
- 柏市 報道発表(2025年12月)
- 埼玉県 報道発表(2025年2月)
- 厚生労働省「HACCPに沿った衛生管理」
- LOGISTICS TODAY(クロスオーダー)
- LOGISTICS TODAY(久世 プロデポ)